気候変動の緩和に向け、二酸化炭素(CO2)の排出削減だけではなく、CO2を直接的に除去するネガティブエミッション技術(NETs)が注目されています。ここでは、各技術の回収ポテンシャル(Gt CO2/年)とコスト($/tCO2)、および技術的背景について詳しく解説します。
DACCS(直接空気回収と貯留)
- 回収ポテンシャル: 22.5 GtCO2/年
- コスト: 100~300 $/tCO2
DACCSは、大気中のCO2を直接吸収し、貯留する技術です。一番シンプルでポテンシャルも大きいですが、400ppmという待機中の希薄なCO2を回収するのに多くのエネルギーを必要とするため、運用コストが高くなります。現在、再生可能エネルギーを利用したエネルギー効率の改善が進められています。
BECCS(バイオエネルギーと炭素回収・貯留)
- 回収ポテンシャル: 5.8 GtCO2/年
- コスト: 15~400 $/tCO2
BECCSは、バイオマスを燃焼または発酵させる際に発生するCO2を回収し、貯留する技術です。バイオマスは待機中のCO2を光合成で回収してできた材料ですので、これを燃やしてエネルギーを得つつ、CO2を回収すればCO2削減になります。
待機中からのCO2回収を植物にやってもらっているようなイメージですね。バイオマスの利用によりエネルギー供給とCO2除去の両方を実現しますが、バイオマスの持続可能な供給とCO2の貯留インフラの確保が課題です。
風化促進
- 回収ポテンシャル: 3.0 GtCO2/年
- コスト: 50~200 $/tCO2
風化促進は、玄武岩などのケイ酸塩を含む岩石を粉砕し、散布することで自然の風化を人工的に加速し、CO2を炭酸塩として固定する技術です。土地改良などの副次的な利点もありますが、環境影響の評価や大規模な実施のためのコストが課題です。
バイオ炭
- 回収ポテンシャル: 3.5 GtCO2/年
- コスト: 10~345 $/tCO2
バイオ炭は、バイオマスを炭化させて得られる炭素を含む物質で、土壌に埋めることで長期にわたって炭素を貯留できます。土壌改良効果も期待されますが、バイオマスの安定供給とコストの問題があります。
植林・再生林
- 回収ポテンシャル: 5.3 GtCO2/年
- コスト: 0~240 $/tCO2
植林や再生林は、新たに森林を植えることで大気中のCO2を吸収し、貯留する方法です。土地の利用や生態系への影響を考慮する必要があり、持続可能な森林管理が求められます。
土壌炭素貯留
- 回収ポテンシャル: 5.0 GtCO2/年
- コスト: -45~100 $/tCO2
土壌炭素貯留は、農業や林業において土壌中に炭素を貯留する方法です。炭素の長期貯留が期待されますが、測定の難しさや農地管理の変更による影響が課題です。
ブルーカーボン管理
- 回収ポテンシャル: <1 GtCO2/年
- コスト: 240~30000 $/tCO2
ブルーカーボン管理は、マングローブや塩性湿地、海草などの沿岸生態系によるCO2の貯留を促進する方法です。生態系保全の効果もありますが、管理と測定のコストが高いです。
大型海藻養殖
- 回収ポテンシャル: <1 GtCO2/年
- コスト: データなし
大型海藻養殖は、海藻を大量に育て、CO2を吸収・貯留する方法です。食料やエネルギー資源としての利用も期待されますが、大規模な実施に向けたコストと環境影響の評価が必要です。
海洋アルカリ化
- 回収ポテンシャル: 50.0 GtCO2/年
- コスト: 40~260 $/tCO2
海洋アルカリ化は、海水にアルカリ性物質を添加し、海洋の自然な炭素吸収を促進する方法です。大規模な実施が可能ですが、海洋生態系への影響を慎重に評価する必要があります。
海洋肥沃化
- 回収ポテンシャル: 1.5 GtCO2/年
- コスト: 50~500 $/tCO2
海洋肥沃化は、海洋に養分を散布して生物生産を促進し、CO2の吸収を増加させる方法です。生態系への影響が懸念されており、環境影響の評価が重要です。
まとめ
ネガティブエミッション技術(NETs)は、CO2を除去するためのさまざまな方法を提供しますが、それぞれの技術には独自の利点と課題があります。技術の選択と実施には、コスト、回収ポテンシャル、環境影響を総合的に評価することが求められます。持続可能な未来を実現するためには、これらの技術の研究開発と導入が重要です。