Youtubeにて2ちゃんねる開設者のひろゆき氏の放送を聴いていて驚きました。グレタさんのニュースのときも思ったけど、日本ってまだ温暖化は陰謀だなんて言ってる人が多いのでしょうか。インターネット上のコメントだけだと信じたいのですが、著名人もこんな発信をしているようでは不安なので、調べてみたことを書いておきます。
意外と長くなってしまったので気になるところだけでも!
ひろゆき氏の放送にて
有名なインターネット掲示板”2ちゃんねる”の解説者の一人であるひろゆき氏はYoutubeにおいて、チャットの質問に答えるというライブ放送を行っています。彼らしい”論破”の仕方と何事にも瞬時にそれらしい答えを返すというスタイルを何の気なしに楽しんでいたところ、温暖化の話題に。
そこでの答えが、
”CO2の可能性もあるけど・・・地球の気候変動の繰り返しの中で今は温暖な方向に行ってる最中という説もありますね”
説もあるという逃げ方はしているものの、言い回しと前後のコメントの仕方だと、”気候変動への人間の影響はない”と言っているようでしたので非常に驚きました。(動画、2:30頃から)
ネットに詳しく、(ほぼ)海外に住んでいるひろゆき氏のような方でもまだこんなことを言っているのか。温暖化が人為的であることは科学的にさんざん証明されてきているのに。
陰謀だ!と決めつけている人はどれだけデータを提示しても聞かないと思うので、温暖化してるっぽいよね?ぐらいに思っている人向けにどうしてそういう結論になっているかを書いていくつもりです。
”地球自体”は寒冷化している
一番今回の発言に関係しています。彼の言っていることは逆で人類の影響を除いた地球自体は長いスパンで見ると寒冷化傾向にあります。
Source:http://www.realclimate.org/index.php/archives/2013/09/paleoclimate-the-end-of-the-holocene/ Data1,2
私たちが生まれるはるか昔(4000年ほど前)から考えると地球自体がゆっくりと寒冷化しているのがわかるのではないかと思います。1,2
そして右端に見えるここ数十年の急上昇。これは産業革命以降の人類の影響であると考えるのが自然です。他の影響と詳しく比べたい方はNASAのページがわかりやすいです。
こちらが1900年あたりからの温度のグラフ。確かにこれだけ見ると”ゆっくり”に見えますが、地球規模で考えるのであればもっと長い期間を見て議論しなければなりません。
Source: https://ourchangingclimate.wordpress.com/2013/03/19/the-two-epochs-of-marcott/ Data1–4
さらにさかのぼって2万年前からの温度変化です。近年の温度上昇は、氷河期(更新世)の終わりの温度上昇(グラフ中央、一万年前あたり)と比べてもかなり急激であることがわかります。1–4(赤い線はIPCCの予測する気温上昇モデル)
ここ数十年の急激な温度上昇は以前の氷河期から見ても存在しない。氷河期が終わるときよりも速いスピードなのです。Modern global warming has been ~10x faster than any warming and temperature is now higher than any time in at least the past 20,000 years. Without us, very slow orbital cooling (23,000-year precession cycle) would have continued. More on these data:5
人間せいぜい自分の寿命か孫世代くらいまでしか考えられないとして、だいたい普段考える時間軸は100年くらいだと思います。気候変動の難しいところはそのスパンがそれをはるかに超えてしまうこと。なかなかこういった長い期間のデータを見ることはないと思いますが、近年の気候変動がどれだけ大きなものか少し感じていただけるのではないかと思います。
よくある懐疑的意見について
挙げたらきりがないのですが今回は二つ。
温度の計測がおかしいのではないか
これは温暖化という言葉が出てきてから、よく議論されてきた問題です。各都市が成長するにつれ、ビルやコンクリートが多くなり局所的な温度の上昇がこのグラフを作っているというものです。
こちらはそれぞれ個別に行われた温度計測の結果を重ねて示した図です。上記のような計測の問題や測定の質や量についてもそれぞれ丁寧に行われたものです。おかしいくらいに似通っています。
https://climate.nasa.gov/scientific-consensus6
これだけ大規模かつ複雑なデータ解析においてここまでの一致を見せるのは、非常にまれなことであり、それ自体も一つの大きな合意理由となっています。
例えばBerkley Labによって行われたものは、もともと温暖化に対して懐疑的だった教授が行ったもので、彼はその経験ついて本で語っています。7
温暖化は太陽の影響?
太陽の影響についても、黒点の移動、周回軌道は何十年とかで大きく動くものではありません。何千年、何万年と書けてゆっくりと変化していくものです。意外と昔の情報もあります。望遠鏡を作ったガリレオが観察した黒点の情報など(1612年)
Source: https://climate.nasa.gov/causes/ 8 Data9,10
こちらが太陽の活動(黄色)と温度の関係です。
ご覧のように二酸化炭素ほどの相関は確認できません。もちろん検証もたくさんされていて、最初の図にあるようなここまで大幅かつ、短期間の変化を説明することは不可能に近いとされています。
以下IPCCの報告書から。11: “There is high confidence that changes in total solar irradiance have not contributed to the increase in global mean surface temperature over the period 1986 to 2008...There is medium confidence that the 11-year cycle of solar variability influences decadal climate fluctuations...”
でも偉い人が言ってたよ
でもひろゆきさんが言ってたよとか、どこどこ大学の教授が言ってたよとか、私よりそっちを信じたい気持ちはわかります。しかし、世界的にみても97%の科学者が人為的な気候変動が起きていることを認めているというのがわかっています。12,13
論文が読みにくければニュースもあります。アメリカのニュースではよく知られているデータとして5年以上前から取り上げられるデータです。
普段研究をしていてわかる一つ重要なこととして、自分のわかっていることがかなり少ないということが挙げられます。最先端のものであればあるほど、わからないことも多く人生をかけて研究している人でも慎重になります。それにもかかわらず専門家でもない“有名な人”最近でいうインフルエンサーのような人のいうことを簡単に信じてしまうのは相当危険なことです。
だからこそ専門家の集めたデータをまず出発点にするのが適切かなと思うわけです。
国際団体IPCCの見解
聞いたことがあるかもしれませんが、IPCCという国際団体が気候変動に関する調査を行い、レポートを発行しています。世界中の研究者、政府機関(195カ国)が結果を認めている機関です。
政府や学者なんか信用できない!気候変動の研究をしているのだからバイアスがかかっているに決まっている!という議論もあるかと思いますが、実はこの団体はもともと気候変動に関して意外と保守的な態度をとっていたのです。
最初の報告書が出されたのは1997年。この時の報告書には”気候変動モデルとの一致は見られるが、自然由来のものと区別はできない”と書かれています。まだはっきりとは言えない、というずいぶん弱い文言でした。
しかし、それが2007年のもので”温暖化はUnequivocal/疑いの余地なし”となり、2013年では”人類の影響があることは明確(95%以上)。1983-2012年はここ1400年間で最も暖かい30年であった。”となっています。この過程を見るだけでもかなり丁寧に調査がされているように感じます。
もちろん一つ一つの調査自体も最先端の研究者がバイアス、データの偏りがないように配慮したうえで出したものですので、その事実の方が大事ですが、そのデータを見ようともしない人たちにはぜひこの過程も知っていただきたいです。
95%ですよ?かなり高いですよね。明日雨降る確率95%って言われたら傘持っていきますよね?それなのに何も策を講じず気候変動を見過ごすのはどうなのでしょうか。
温暖化信者の問題
気候変動懐疑論がここまで広がる理由の一つとして、温暖化信者の誤った情報発信というものも挙げられます。
例えば”温暖化による台風、ハリケーンの数が増えている”といった主張を温暖化の悪影響として挙げる方がいます。
しかし、実際に数の変化は有意とは言えないため、(数が増えているとは結論付けられていない)反対派側の主張として「台風の数は増えていない→温暖化信者が嘘を言っている→温暖化は嘘」という流れができることです。
アルゴア氏の「不都合な真実」など有名な温暖化関連書籍にもいくつかの間違いがあるのでやり玉にあげられます。しかし、マイナーな誤情報はあっても、他の多くの事実に裏付けられた気候変動が起きいているという大きな結論は変わりません。
もう一つの例は実際には寒冷化している地域もあるということ。シカゴも寒いですが、大気の循環が変わることによって寒冷化している地域も実際にあります。ただし、地球の表面温度の平均は確実に上昇しています。
この寒冷化している地域もあるぞ!という攻め方もされるようになってから"温暖化"という言葉より"気候変動"という言葉が適切と考えられるようになっています。
正しい情報を伝えるというのは最先端になればなるほど難しくなるので、一つ一つの事象について検証していくのは大切です。しかし、一つの反例だけで他に積み上げられた証拠をすべてひっくり返すのは間違っていると思います。
信じないとしても
95%といわれてもまだ5%間違っている可能性があるじゃないかとか、過去の例を見れば科学者が間違っていることなんて多々あると思われる方もいるでしょう。私も100%信じているとは言いません。それでも今の国際状況を考えたら、気候変動を信じる信じない関係なくその対策を早く講じた方が得であると考えます。
こちらはパリ協定と呼ばれる最新の環境対策に関する国際合意にサインまたは批准した国です。アメリカだけは批准しないことを決めましたが他はみんな体裁的には合意、批准しています。
気候変動は各国での対策だけでは不十分なので(大気も海もつながっているので)、今後もこのような国際合意がなされることが考えられます。それは国際環境税や、CO2排出枠といった形として出されることになるでしょう。
そうなれば日本としてもその協定に加わざるを得なくなり、その段階で対策に後れを取っていれば環境対策技術の導入など大きな経済的、政治的な負担を避けられなくなります。逆に、技術を提供する側になることができればそこで大きなリードを持つことができると思います。
世界的に同様に影響がある(先進国では経済的な、途上国では人命に関する影響が大きくなる傾向がある)という意見が主流になりつつ今、14下手な懐疑論に振り回され後れを取ることは経済の観点からも大きな痛手になりかねないと思います。
なので別に信じなくてもいいので、世界的な大局をみて、日本の将来を考えてくれる人が増えてくれるといいなと思います(笑)
個人的に思うこと
最後に少し話は変わって。だんだん人間が地球規模のエネルギーを扱えるようになってきているっていうのは個人的には面白いことだと思います。
地球に降り注ぐ太陽からのエネルギーは約175ペタワット。(地表だと約85PW)2018年における世界のエネルギー消費量が約162ペタワット時。(2017年、IEA15)だんだんと人間の使うエネルギー量が太陽から受けるエネルギーの規模に迫ってきているのがわかります。(注:太陽エネルギーは一時間で175ペタワット、人類の消費量は一年なのでまだまだ小さいけどね)
扱えるエネルギー規模が大きくなること自体は遠い将来、地球の温度をコントロールして氷河期が来ないようにするとか、宇宙に出ていく、火星に住むといった人類のロマンを感じられてけっこう好きです。でも、そのためには植物が昔からためてきた化石燃料を使うのではなくて今あるエネルギーで社会を回せるようになるのが先だと思います。
私はこの分野の専門家でもないけど、少し調べればこれくらいの情報は簡単に出てきます。有名人とかの言っていることを鵜呑みするのではなくて、しっかりと一次情報に当たれるように気を付けてみてください。
そしてどこか間違っていたり、質問があったりしたら気軽に教えてください!私も今後学んでいければと思っています。
最後に
ひろゆき氏のような影響力があって、グローバル感を出している人でも懐疑論に傾いているような雰囲気を出していることにびっくりしました。(注: ひろゆきさんのことは好きですし、これからもYoutubeみます。)
先月、環境活動家のグレタさんがニュースに上がったときも、ネット上では温暖化は陰謀、といったような時代錯誤な議論をよく見かけました。そのときはネット上の議論だから、という理由で個人的に納得していましたが、この放送を見て不安になったので、自分なりにまとめてみました。
そんなこと言っているのは一部で大多数はちゃんと理解しているということならいいのだけれど、こちらでそういった授業を取る機会もあったので今回まとめてみました。
温暖化を信じない人はこういったエビデンスで殴る方法では納得しないのだろうけど、普段はなんとなく気候変動という言葉を受け入れているだけの人に少しでも考えてもらい、自信をもってもらえる機会になればと思います。
参考文献
(1) Marcott, S. A.; Shakun, J. D.; Clark, P. U.; Mix, A. C. A Reconstruction of Regional and Global Temperature for the Past 11,300 Years. Science 2013, 339 (6124), 1198–1201. https://doi.org/10.1126/science.1228026.
(2) Met Office Hadley Centre observations datasets https://www.metoffice.gov.uk/hadobs/hadcrut4/data/current/download.html (accessed Nov 16, 2019).
(3) Shakun, J. D.; Clark, P. U.; He, F.; Marcott, S. A.; Mix, A. C.; Liu, Z.; Otto-Bliesner, B.; Schmittner, A.; Bard, E. Global Warming Preceded by Increasing Carbon Dioxide Concentrations during the Last Deglaciation. Nature 2012, 484 (7392), 49–54. https://doi.org/10.1038/nature10915.
(4) AR4 Climate Change 2007: The Physical Science Basis — IPCC.
(5) Paleoclimate: The End of the Holocene. RealClimate.
(6) Scientific Consensus: Earth’s Climate is Warming https://climate.nasa.gov/scientific-consensus (accessed Nov 16, 2019).
(7) Physics for Future Presidents: The Science Behind the Headlines (9780393337112): Richard A. Muller:
(8) The Causes of Climate Change https://climate.nasa.gov/causes (accessed Nov 16, 2019).
(9) Lean, J. L. Cycles and Trends in Solar Irradiance and Climate. Wiley Interdiscip. Rev. Clim. Change 2010, 1 (1), 111–122. https://doi.org/10.1002/wcc.18.
(10) Lockwood, M. Solar Change and Climate: An Update in the Light of the Current Exceptional Solar Minimum. Proc. R. Soc. Math. Phys. Eng. Sci. 2010, 466 (2114), 303–329. https://doi.org/10.1098/rspa.2009.0519.
(11) AR5 Synthesis Report: Climate Change 2014 — IPCC https://www.ipcc.ch/report/ar5/syr/ (accessed Nov 16, 2019).
(12) Cook, J.; Nuccitelli, D.; Green, S. A.; Richardson, M.; Winkler, B.; Painting, R.; Way, R.; Jacobs, P.; Skuce, A. Quantifying the Consensus on Anthropogenic Global Warming in the Scientific Literature. Environ. Res. Lett. 2013, 8 (2), 024024. https://doi.org/10.1088/1748-9326/8/2/024024.
(13) Cook, J.; Oreskes, N.; Doran, P. T.; Anderegg, W. R. L.; Verheggen, B.; Maibach, E. W.; Carlton, J. S.; Lewandowsky, S.; Skuce, A. G.; Green, S. A.; et al. Consensus on Consensus: A Synthesis of Consensus Estimates on Human-Caused Global Warming. Environ. Res. Lett. 2016, 11 (4), 048002. https://doi.org/10.1088/1748-9326/11/4/048002.
(14) Mora, C.; Spirandelli, D.; Franklin, E. C.; Lynham, J.; Kantar, M. B.; Miles, W.; Smith, C. Z.; Freel, K.; Moy, J.; Louis, L. V.; et al. Broad Threat to Humanity from Cumulative Climate Hazards Intensified by Greenhouse Gas Emissions. Nat. Clim. Change 2018, 8 (12), 1062–1071. https://doi.org/10.1038/s41558-018-0315-6.
(15) IEA. Key World Energy Statistics 2019. 2019.